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debsy

をそらした。

をそらした。それから、ちいさくを振った。

 

 言うか言わぬかを逡巡しているのか?

 

「餓鬼のころ、おれは過ちを犯した。くそったれの大人どもに犯され、泣いているあいつを……。いまだになぜあんな愚かなことをしたかはわからない。慰める術だったのか?たぶん、それもあっただろう。だが、まだ餓鬼だった。その行為に純粋な愛などなかった」

 

 その告白は、ある意味衝撃的すぎた。

 

「それ以降、髮線後移男 うしろめたさがずっとつきまとっている。あいつは、そのときいっさい抵抗しなかったし、そのあともおれを責めるようなことはいっさいなかった。いっそ、非難してくれた方がおれ的にはずっとラクだったんだが。だが、一方でおれの中で何かがかわってしまった。あいつの見方が、まったくちがってしまった。おれは、あいつよりずっと弱い。肉体的にも精神的にも、ずっとずっと弱い。だから、常に自分自身にいいきかせなければならない。そうでなければ、あいつに、あいつに溺れてしまう。溺れてしまうことがわかりきっている……

 

 これほど苦しそうな俊冬をみたのははじめてである。

 

 同時に、かれも一人ので男でおれとおない年の、ある意味では青二才なんだと実感した。

 

「そんなに俊春のことを愛しているのに、それでもおまえは死ぬというのか?」

「だからこそ、なのかもしれない……

「おまえがなにをいおうが思っていようが、おれは納得できない。容認するつもりもない」

 

 これだけは、ぜったいに譲れない。

 

 めずらしく、かれは集中力が途切れたようだ。どこか上の空になっている。

 

 俊春のことが気にかかるのだ。

 

 たしかに、かれを引き止めすぎた。「まだ話をしたいが、俊春を一人にするわけにもいかない。いってやれよ。明日の朝、また話をしよう」

 

 そう提案すると、俊冬はこくりとうなずいた。そして、おれが瞼を閉じる間もなく眼前から消え去ってしまった。

 

「もどろう、相棒」

 

 踵を返すと、厩のまえで待っている島田たちのほうへあるきはじめた。

 

 

 

 結局、眠れぬ夜をすごした。

 

 それは、島田と安富と蟻通と沢と久吉も同様である。

 

 藁の上に横になり、ぽつりぽつりと会話をかわした。

 

 内容は、まだ永倉と原田と斎藤ら組長たちがいたときのころの思い出話である。

 

 こっちにきてから、ときにすればそんなに経っていない。なのに、もう何十年も前のことのように思えてくる。

 

 結局、だれもが完徹状態で、雀たちの声をきく羽目になった。

 

 だれからともなく起きだし、身支度をしてからお馬さんたちの準備にかかった。

 

 とそこへ、五稜郭内で眠っていた伊庭と中島と尾関と尾形、それから市村と田村がやってきた。

 

 ついでに、野村もいる。

 

「副長をみかけました。榎本総裁と打ち合わせをおこなうのでしょう。総裁の部屋に入ってゆきました。ぽちが同道していました」

 

 中島の報告に、思わず島田たちとを見合わせてしまった。

 

「といいたいところですが、あれはたまですね。もうすこしでだまされるところでした」

「歳さん以上に歳さんだった。頬の傷も、うまく目立たなくしていたよ」

 

 中島につづき、伊庭が嘆息しつついった。

 

 すぐに、昨夜のことを話した。

 

 もちろん、俊冬とおれの会話は省いて、である。

 

「ということは、いまだに歳さんはこの五稜郭のどこかに閉じこめられているというわけか」

「八郎さん、おっしゃるとおりです。とりあえず、探さなければ」

「探すだけじゃだめだな。鍵がなければ、そこからだすことができぬ」

 

 島田のいうとおりである。

 

「鍵が手に入ったとして、だれが探しますか?」

「わたしたちで探そう。鉄と銀もともに頼む。ここにいるはずのない、わたしたちが探すほうがいいであろう?」

 

 中島の案に甘えることにした。

 

「鉄、銀、いいな?副長を探しだしたら、すぐに一本木関門にくればいい」

 

 島田の命令に、市村と田村は素直にうなずいた。

 

「だが、副長は?連れてゆくのですか?」

「土方さんは……。そうだな。それはまずいな。副長は、味方からも狙われている。安否だけ確認し、やはりそこに閉じ込めておいた方がよさそうだ」

「勘吾の申すとおりだ。登、なにをいわれても従うな」

「承知」

 

 島田の命に、中島は了承する。

 

 そのやりとりをききながら、相棒ならすぐにでも見つけられるかもしれないのにと思った。

 

 その相棒を見下ろしてみた。すると、相棒もこちらをみている。

 

「相棒、頼むよ」

 

 ダメもとで頼んでみた。

 どうせ塩対応するだろうって思いながら。

 

 が、いつもの「ふふんっ」ではなかった。

 

 狼面を上下に振ってくれたのである。

 

 そのタイミングで、沢と久吉がやってきた。

 

 かれらは、朝餉の後始末で厨にいっていたのである。

 

「安富先生。副長が、そろそろ出発するのでお馬さんを連れてきてくれ、とのことです」

 

 沢がいった。が、久吉がおずおずとつけたす。

 

「たま先生、でした」

「ああ、馬鹿で愚かで頑固者のやつのことであろう?」

 

 安富は吐き捨てるようにいい、お馬さんたちを連れに厩へ入っていった。

 

 副長と、いや、副長になりすましている俊冬と俊春、それから十数名の歩兵がすでに待っている。

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