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薬のおかげで、痛みは薄らいできたものの、体に力が伝わらない。
最後の見せ場だというのに、横になりたいという誘惑に駆られる。
かたわらにあった木の幹にすがりつこうとするが、その腕でさえあがらない。
足はあがらず、息だけがあがる。
胸が悲鳴をあげる。
呪符を流せるような場所までは、とてもたどり着けそうにない。
足を伝い沓にまで入り込んだ血が、ぐずぐずと音をたてる。
頭がうずく。
気がつくと地面が目の前にあった。
落ち葉が顔に張りついている。
何かにつまずいたのだろう。【男女脫髮】髮線後移點算好?詳解原因&治療方法! -
必死の思いで体を起こしたものの、呼吸ひとつするにも苦痛がともなう。
体が震えはじめた。
くそっ!
この大事に、なんというありさまだ。
それに比べ、
――イダテン、おまえはたいしたものだ。
腕も立つ、頭も良い。
わしは、おまえがうらやましい。
――今、このとき限りでよい。
おまえと同じ力が欲しい。
人のものならぬ、その力が欲しい。
お前の力を手に入れることができるのなら、わしは喜んで鬼となろう。
人に忌み嫌われようが、地獄に落ちようが、虫けらに生まれ変わろうが後悔などしない。
鷲尾小太郎義久が名が、悪名として国中に鳴り響こうが、後世に残ろうがかまわない。
姫さえ守ることが出来るなら、何ほどのことがあろう。
どのような代償とて喜んで払おう。――だが、体は動かなかった。
みぞおちが締めつけられ、震えが走る。
寒けに襲われ――目の前が次第に暗くなり苦痛が遠のいた。
ぼんやりと、母者の姿が浮かび上がった。
微笑んではいるものの、その口もとは心配げに歪んでいた。
「必ず名を上げる。出世して帰ってくる」
覚悟を口にした。
母者の隣で、三郎が拳を握りしめ、火照った顔で笑みを浮かべた。
「兄者ならば鷲尾の家を再興できよう」
その隣で、いつもは気難しいおじじが別人のように微笑んでいる。
「武士の矜持を忘れてはならぬぞ。よいな義久」
母者は、なかなか声をかけてくれなかった。
別れ際にようやく、
「体にだけは気を付けるのですよ」
と、一言告げて背を向けた。
まるで、涙をこらえるかのように。
何を心配しておるのだ。
わが名は、鷲尾小太郎義久ぞ。
皇子を守るために、盾となったヨシノモリが末裔ぞ。
心配などいらぬ。
必ずや、先祖の名に恥じぬだけの武名をあげてみせよう。
苦労を掛けた母者が、あれが、わが息子よと胸を張って自慢できるだけの手柄をあげてここへ帰って来るのだ――それができぬなら、二度とこの地を踏まぬ――そう覚悟を決めていた。
大伯父の口利きで、備後国の安那様のもとで郎従として働くことが決まっていた。
そこに向かう途中で行方をくらました。
宗我部の懐に潜り込むためだ。
むろん、正体を知られれば、なぶり殺されるだろう。
おじじや母者を脅す駒として使われたあげくにだ。
――ああ、そのような性質だと承知しているからこそ心配なのか。
今になって気がついた。
無謀で世間知らずの息子が、夫同様、自分より先に逝くのではないかと。
三郎が、おじじが、そして母者が、手を差しのべてきた。
もう良いのだと、皆が笑っていた。
お前は兼親を葬ったではないか。
一矢報いたではないかと。
あれは、手柄と口にできるものではない、と応えるが、それでも皆が手を差し伸べる。
――待て、待ってくれ。
わしには、まだ遣り残したことがある。
一人でも多く、わずかの距離でも引きつけねばならない――つぶやくように口にした。
「……イダテン……」
「姫、こっちじゃ!」
呼応するようにイダテンが叫んだ。
いや、イダテンではない。
イダテンの姿をとった呪符が叫んでいるのだ。
遠のいていた意識が戻ってきた。
このまま逝くわけにはいかない。
父の最期を、母と三郎の最期を、そしておのれの無念を思い描いた。
ああ――そうじゃ。
一言じゃ。一言でよいのだ。
八幡大菩薩よ、最後の願いじゃ。
わしに力をくれ――せめて、おのれが役に立てたと思うほどに。